第9話 天国のように美しい地獄・恐山
青
森から車で3時間ほどの距離に、日本三大霊山のひとつ恐山がある。地獄に一番近い恐山といわれるが、実際に行ってみれば、天国である。10月の澄み渡った青空の中、峠を越えて恐山に入ると、恐山のイメージとはまったく正反対の絶景が突如として目の前に広がり、驚きを隠せなかった。これほど美しい風景に会えるとは考えてもいなかった。とくに外輪山に囲まれた宇曾利湖のコバルトブルーに輝く湖面に心顕れるばかりである。
しかしここには、三途の川、地獄谷、女郎地獄、重罪地獄、賽の河原といった恐ろしい場所がひしめき合っている。美しい宇曾利湖に注ぐ三途の川には、積み石が無数に点在し、現世で犯した罪をつぐなうかのようだ。三途の川にかかる朱塗りの橋は、この世とあの世とを結んでる橋とされ、渡り終わると生きながらあの世(恐山)に足を踏み入れることがで
きる。
地獄谷は、恐山の真骨頂だ。黄色い硫黄が噴出し、荒涼とした地獄が再現され本能的に一刻も早くここから立ち去りたいと言う思いが高まってくる。無間地獄から賽の河原に達すると、八角堂というお堂が現れる。病気や怪我の身代わりとして祀られた無数の人形が、この世の悲しみを表現しているようで、からだの芯から震えが沸きあがってくる。素晴らしい風景の中に、それとは対照的な怪奇スポットが広がるギャップにただ驚くばかりである。
人が死ぬと、魂は近くの山に入って祖霊となり、やがて田の神となって里の反映を見守る。これが
民衆に広がる恐山信仰の基となっている。そうした信仰が底流にある中、慈覚大師が、お告げにより恐山に地蔵堂を建立し、現在の恐山の基礎となった。なんと西暦862年、いまから1100年以上も昔の話しである。慈覚大師は、お告げに従い、本州最北端の地に向かい、険しく厳しい道のりをひたすら歩き続け、探し求めた地、恐山にたどり着いたのだと言う。
有名なイタコは、生まれつき盲目であったり、幼少期に失明した女性が修行によって霊媒師の能力を備わった者だ。夏と秋の恐山の大祭には、青森・岩手から多くのイタコが集まり、死者の霊をこの世に呼び戻す「口寄せ」の業が行われる。雪に閉ざされる前に、一度ここを訪問してはいかがか。日常では味わえない、不思議な気持ちを体験できることをお約束する。