第20話 怪談累ヶ淵の犯行現場
ここだけは行きたくないと思っていたところに足を運ぶことになった。あの怪談、眞景累ヶ淵の現
場、茨城県水海道市羽生の法蔵寺である。法蔵寺の山門に近づくに従って、なんと背筋に悪寒が走りだし、全身が震えだした。妖気に取り憑かれないことを願うばかりだ。雨雲が、厚く垂れ下がる初春の
頃、累(かさね)の供養塔に一人詣でて、心霊を鎮めにいった。
眞景累ヶ淵は、鶴屋南北や三遊亭円朝の講談などでよく知られる怪談話だが、その元となった話は、この法蔵寺の裏に流れる鬼怒川べりで本当にあった事件なのだ。おおよその筋書きはこうだ。そのむかし、与右衛門という男が、その女房の連れ子だった男の子の助を、鬼怒川の堀に投げ込んで殺したことから話が始まる。助は生まれつき目と足に障害があり、与右衛門はそれをきらった。しかし翌年生まれた女の子も、殺した助と全く同じ障害があらわれてしまったのだ。その女の子が累である。
両親の死後、累は父と同名の与右衛門と結婚するが、与右衛門のねらいは累の両親が残した田畑にあった。そのため障害でみにくい累が次第に邪魔となり、累を殺して別の女と一緒になる計画を立てる。ある日畑仕事の帰り、与右衛門は計画を実行し、累を法蔵寺裏の鬼怒
川の堀に突き落とした。川の中から必死で手を伸ばす累の頭を踏みつけ、口に水砂利を押し込め、目を付き、喉を
絞める残酷な方法で殺害に至ったという。
与右衛門はめでたく別の女と一緒になるが、その女は累に取り憑かれて死に、その後幾人もの後妻が死んでしまうという怪現象が続く。6番目の後妻にようやく生まれた菊という女の子にまで取り憑いてしまった。菊が14歳になった頃、累は菊の口を通じて過去の事件をあらいざらいぶちまけたから、大騒ぎになった。そしてようやく祐天上人の法力によって、累と助の亡霊が治まったという話である。まさに「因果はめぐる尾車の」である。
法蔵寺の古めかしい山門をくぐると、竹垣に囲まれた累と助の墓が今でも悲惨な事件を伝えよう
と、立ちすくんでいる。この寺には、眞景累ヶ淵を描いた絵巻や祐天上人がその時の解脱に用いた数珠も残っている。しかし一番恐いのは、累が無残にも殺害された現場、鬼怒川の堀が現存していることだ。取り憑かれないうちに、早めに立ち去った方がよさそうだ。