第26話 霊界エリア・東京の谷中に恐怖画を見る

 お盆も間近に迫った8月のはじめ、東京の一大心霊エリア、谷中を訪れた。ここは谷中霊園を中心に、数多くの寺院が密集する異界あるいは霊界そのものである。かくも寺院が密集したのは、江戸時代幽霊との対面入り口以降の度重なる大火災のたびに、東京のあちこちから寺院が逃げて集まってきたからだ。徳川幕府としても、谷中一帯を宗教エリアとする方針を持っていた。

 なかでも身震いするほど怖いところが、三崎坂(さんさきざか)である。地下鉄千代田線の千駄木駅を出全生庵本堂て、谷中霊園方面に向けて上り坂となる道だ。緩やかなカーブを描く先は、まさに谷中霊園の入り口に到達する。この三崎坂は、あの怪談牡丹燈篭の主役、お露が毎夜『カランコロン』と下駄の音を響かせながら通った坂なのだ。日本の幽霊としては珍しく足があるので有名でもある。むかし坂の下にあった新幡随院寺は、お露が埋められていたところで、以前はお露人形が祀られていたという。しかし現在では、その地を特定することが出来ない。東京独特の蒸し暑さがおさまらない真夏の夜中、丑三つ時にでも一人三崎坂へ行き、お露とともに霊界散歩するのも一興では。。。

 三崎坂の途中に立派なお堂を構える全生庵が、また恐ろしい。怪談話をいくつも作り出し、世間に語りかけた三遊亭円朝のゆかりの寺である。なんと偶然にも、その日は円朝の幽霊画コレクションの一般公開の当日だった。早速、全生庵の門をくぐり、本堂の脇に用意された幽霊画保存室に入った。いくつもの掛け軸に描かれたモノトーンの幽霊画は、円朝がほうぼうに赴き、苦心して入手したものだけあって、背骨がカタカタと振えるほどの恐怖画ぞろいだ。写真撮影を試みようとファインダーをのぞいたが、レンズ越しに映る幽霊達を引き寄せてしまうかのようで、とうとうシャッターを切ることが出来なかった。

三崎坂の現在 幽霊画コレクションは、全部で百幅あるといわれているが、実際は九十九幅である。これは、江戸時代に流行った百物語の影響で、百まで画を集めてしまうと、恐ろしい怪異現象が生起するという三遊亭円長の墓碑言い伝えを信じたからだ。したがって意図して九十九に留めているのである。コレクション公開は今しばらく続くらしく、この機に一度谷中に出向き、自分の目で直に幽霊体験することをお勧めしよう。