第10話 東京赤坂、六本木の不気味地図はこちら
東京のど真ん中が、実は身も凍る不気味な一帯であることをご存知の方がどのぐらいおられるか。あの歓楽街、赤坂、六本木界隈である。六本木は、むかし青山墓地の一角で、雑木林の中に無数
の墓場が広がっていたのだ。死者を送
って、遺骨を埋める場所以外の何物でもなかった。今でこそまぶしいネオンが一帯を照らしているが、過去の六本木は淋しく暗いところで、あの世とこの世の境目だった。葵三代の徳川秀忠の夫人が亡くなった時も、ここ六本木で死者を送ったという。明治時代になり、墓地を取り崩して兵舎を作ったのがこの地の開発の始まりである。
六本木のとなりの乃木坂は、もっと怖い。乃木坂はそのむかし幽霊坂と呼ばれ、ほんとの幽霊がしょっちゅう出ていたところだ。青山墓地に続く坂道として怖い話がたくさんあったのだろう。乃木坂をのぼったところに今でも保存されているのが、乃木大将の私邸である。ここにも近寄りがたいスポ
ットがあった。乃木大将とその夫人が、明治天皇崩御を追って共に自決した部屋が、いつでも誰にでも見れる形で残っているのだ。その部屋の畳の上に乃木大将の自決場所と夫人の自決場所が墨書されており、リアリティーを増幅させている。気のせい
かその場所に血痕まで残っているような気がしてならない。乃木大将自決後に、幽霊坂は乃木坂に改称された。
歴史を最近にまで近づけると、地下鉄丸の内線の赤坂見附駅前に長らく放置されていたホテルニュージャパンの記憶が生々しい。あの大火災により外国人を含めた多数の死者が発生した。高層階からカーテンづたいに火災から逃れようとする宿泊客のテレビ映像が脳裏によみがえる。今現在その地に、新しい高層ビルを建てようと工事車両が頻繁に行き来している。また恐ろしい火災が発生しないことを祈るばかりだ。
ホテルニュージャパンから皇居方面に伸びる坂道が紀伊国坂だ。紀伊国坂は、むかしお堀に面したうら淋しいと通りで、ムジナが出たところで有名だ。小泉八雲の『ムジ
ナ』である。ある侍が深夜この坂を通りかかったとき、お堀のそばで泣いている女がいたので声をかけると、目も耳も鼻もないのっぺらぼうで、あわてて坂の下の夜泣きそばに逃げ込んで、この話をすると『その化け物はこんな顔でしたか』と、やっぱりのっぺらぼうだったという怪談だ。その怪談の舞台がまさにこの赤坂近くのお堀端の坂道なのだ。
